「国の補充的指示権の創設」については慎重な審議を求める意見書(案)
第33次地方制度調査会は、昨年12月21日、「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」を行った。その中で、自治体の事務処理が違法等でなくても、国民の生命、身体又は財産の保護のために必要な措置が的確かつ迅速に実施されることを確保するために、地方自治法の規定を直接の根拠として、国が閣議決定を経て自治体に対し必要な指示ができる制度(国による補充的指示権)の創設を求める内容を盛り込んだ。政府はこの答申に基づき、今通常国会に地方自治法の一部を改正する法律案を3月1日に閣議決定し、成立をめざす見込みである。答申の通りに法制化されれば、国は自治体の自治事務の処理に対し、個別法の根拠規定なしに、違法等でなく、緊急でない場合でも指示権の行使が可能になる。
しかし、2000年の地方分権一括法施行により、国と地方は、「上下・主従」から「対等・協力」の関係となり、機関委任事務制度も廃止された。自治体に対する国の関与のルールも法制化され、必要な最小限度のものとするとともに、自治体の自主性及び自立性に配慮しなければならないとされ、違法な事務処理をした等の場合、「是正の指示」ができるのは法定受託事務のみで、自治事務については「是正の要求」までしかできないとされた。個別法に基づく自治事務の処理に対する国の指示については、あくまでも極めて抑制的、例外的なものとして可能としているにすぎない。今回の答申は、地方分権改革の成果を大きく変容させるもので分権改革に逆行しているといわざるを得ない。
現行制度では、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)等の個別法に規定があれば、国による指示権の行使が可能となっており、地方公共団体への「是正の指示」などができる仕組みとなっている。
今回の改正案では、いわゆる「非平時」の国の関与を強める一般のルールの法制化を行い、現行法制ではカバーできない事態に対処するとのことであるが、どのような事態を想定しているのか具体的に示されていないことから、例えば有事の際に国の指揮下に置かれる可能性があり、地方議会を含む地方公共団体にも大きく影響が及ぶ。日弁連も今年1月に改正に反対する意見書を公表している。
よって、国においては、地方自治法改正案の中で「国の補充的な指示を可能とする改正」部分については、慎重に審議するよう求める。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
令和6年3月 日
佐賀県議会
衆議院議長 額賀 福志郎 様
参議院議長 尾辻 秀久 様
内閣総理大臣 岸田 文雄 様
総務大臣 松本 剛明 様
内閣府特命担当大臣 自見 はなこ 様
(地方創生)
以上、意見書案を提出する。
令和6年3月25日
提出者 武藤 明美 徳光 清孝 藤崎 輝樹 江口 善紀
野田 勝人 中本 正一 木村 雄一 下田 寛
酒井 幸盛
佐賀県議会議長 大場 芳博 様