議員提案条例
「佐賀県手話言語と聞こえの共生社会づくり条例」を制定しました。
「佐賀県手話言語と聞こえの共生社会づくり条例」
手話は、手や指、体の動きなどを用いる独自の言語体系を有し、ろう者とろう者以外の者が、互いの人権を尊重して意思疎通を行うために必要な言語である。
我が国におけるその起源は明治時代とされ、これまで、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展を遂げてきたが、過去には、読唇と発声訓練を中心とする口話法による意思疎通が推し進められ、手話の使用が制約された時代もあった。
その後、平成18年の国際連合総会において、手話が音声言語と同じく言語であることを明記した障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という。)が採択された。
また、我が国も、平成23年に改正した障害者基本法において、手話が言語に含まれることを明確化するとともに、平成26年には障害者権利条約を批准したことにより、ろう者の文化的所産である手話が言語であるとの認識が深まることが期待されている。
そのためには、歴史的経緯を踏まえた手話に対する県民の理解と、地域社会全体における手話の普及促進が必要である。
さらに、聴覚障害は、ろうのほか、難聴や中途失聴など、その程度や特性も様々であることから、聴覚に障害のある人全てが、それぞれの障害の特性に応じた意思疎通手段を用いることができるよう、その手段の普及、利用環境の整備や県民の理解促進を図る必要がある。
佐賀県では、佐賀県聴覚障害者サポートセンターが平成26年に開設された。同施設では、手話通訳者や要約筆記者の養成、派遣や聴覚に障害のある人の社会参加を促進する事業及び、聞こえに不安や不便を感じる人への補聴器具に関する相談対応をはじめ幅広く先進的な支援に取り組んでいるところである。今後とも、高齢化の進展とともに増加する加齢性難聴への支援など、聴覚に障害のある人が必要とする様々な意思疎通手段に対応するための取組の継続及びさらなる充実が必要である。
このような状況に鑑み、ここに、手話が言語であるとの認識を共有するとともに、全ての県民が聴覚障害の有無によって分け隔てられることなく、共に安心して暮らすことができる地域社会を実現するため、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、手話言語の普及及び聴覚障害の特性に応じた意思疎通手段の利用の促進に関する基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者等の役割を明らかにするとともに、意思疎通手段に関する施策の総合的かつ計画的な推進に必要となる基本的事項を定めることにより、全ての県民が、聴覚障害の有無にかかわらず相互に人格と個性を尊重し合いながら共生し、安心して暮らすことのできる地域社会(以下「聞こえの共生社会」という。)の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 手話言語の普及 手話が言語の一つであることを普及することをいう。
(2) 意思疎通手段 手話、要約筆記、筆談、補聴器具の使用その他の聴覚に障害のある人が他者との意思疎通又は周囲からの情報取得を図るための手段をいう。
(3) 聴覚に障害のある人 聴覚の機能の障害がある人であって、当該障害及び社会的障壁(障害のある人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。以下同じ。)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある人をいう。
(4) 聴覚に障害のある人等 聴覚に障害のある人、その支援者及び関係団体をいう。
(5) 学校 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校、同法第134条第1項に規定する各種学校をいう。
(基本理念)
第3条 聞こえの共生社会の推進は、全ての聴覚に障害のある人が、聴覚に障害のない人と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜら れ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
(1) 手話言語の普及は、手話が独自の言語体系を有し、ろう者が日常生活及び社会生活を営むために受け継いできた文化的所産であるとの認識の下に行われること。
(2) 全ての聴覚に障害のある人に係る社会的障壁の除去は、その実施について必要かつ合理的に配慮され、可能な限り、その障害の特性に応じた意思疎通手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。
(県の責務)
第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話言語の普及と聞こえの共生社会を推進するための施策を総合的かつ計画的に策定し、実施するものとする。
2 県は、基本理念にのっとり、全ての聴覚に障害のある人の社会的障壁の除去についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、意思疎通手段を利用しやすい環境の整備を推進するものとする。
3 前項の規定は、特に、県主催の参加者を特定しない集会等の運営において、十分に留意されるものとする。
4 前3項の実施に当たっては、県は、関係団体、市町等と連携を図るとともに、市町が主体となって行う同様の取組を積極的に支援するものとする。
(県民の役割)
第5条 県民は、この条例の目的及び基本理念についての理解を深め、県、市町又は聴覚に障害のある人等が実施する意思疎通手段の利用の促進に関する取組に協力するよう努めるものとする。
2 聴覚に障害のある人等は、県及び市町の施策に協力するとともに、この条例の目的及び基本理念に対する県民の理解の促進及び意思疎通手段の普及に努めるものとする。
3 聴覚に障害のある人等は、意思疎通手段を利用する上で社会的障壁がある場合は、そのことを周囲の人に積極的に伝えるよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、基本理念にのっとり、県及び市町が実施する意思疎通手段の利用の促進に関する施策に積極的に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、基本理念にのっとり、聴覚に障害のある人に対しサービスを提供するとき、又は聴覚に障害のある人を雇用するときは、その社会的障壁の除去についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、障害の特性に応じた意思疎通手段を積極的に利用するよう努めるものとする。
(学校における意思疎通手段の普及等)
第7条 県は、学校教育において、基本理念及び意思疎通手段に対する理解の促進を図るものとする。
2 県教育委員会は、聴覚に障害のある児童、生徒、学生又は幼児(以下「聴覚に障害のある児童等」という。)が通学する県立学校において、教職員の意思疎通手段に関する知識及び技能を向上させるために必要な措置を講ずるとともに、聴覚に障害のある児童等が意思疎通手段により学習することができる環境の整備に努めるものとする。
3 県教育委員会は、県立学校に通学する聴覚に障害のある児童等又はその保護者からの学校における意思疎通手段の利用に関する相談に応じ、必要な支援を行うよう努めるものとする。
4 県は、学校(県立学校を除く。)の設置者に対し、基本理念及び意思疎通手段の理解の促進に関する情報提供、助言その他必要な支援に努めるものとする。
(計画の策定及び推進)
第8条 県は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第2項に規定する障害者のための施策に関する基本的な計画において、聴覚に障害のある人の意思疎通手段に関する基本的施策について定め、これを総合的かつ計画的に推進するとともに、基本的施策の推進に当たっては、聴覚に障害のある人等と連携して推進するための体制を整備するものとする。
2 県は、前項に規定する基本的施策を定め、又は変更しようとするときは、あらかじめ、聴覚に障害のある人等の意見を聴くものとする。
3 知事は、第1項に規定する基本的施策の実施状況について、毎年度、議会に報告するとともに、公表するものとする。
(手話等を学ぶ機会の確保等)
第9条 県は、県民が意思疎通手段の利用に対する理解を深めることができるよう、市町その他関係機関と協力し、啓発及び学習の機会の確保に努めるものとする。
2 県は、その職員がこの条例の目的及び基本理念に対する理解を深め、手話等を学習する取組を推進するため、手話等に関する研修等を行うものとする。
(手話等を用いた情報発信)
第10条 県は、聴覚に障害のある人が円滑に県政に関する情報を取得し、県政に対する意思を表示することができるよう、意思疎通手段を用いた情報発信に努めるものとする。
(災害時の連絡体制整備)
第11条 県は、災害その他の非常の事態において、聴覚に障害のある人が障害の特性に応じた意思疎通手段により、安全を確保するために必要な情報を速やかに取得するとともに、円滑に他者との意思疎通を図ることができるよう、市町その他関係機関と連携し、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(手話通訳者の確保、養成等)
第12条 県は、市町その他関係機関と協力し、ろう者が手話通訳者の派遣等による意思疎通の支援を受けることができる体制を確保するよう努めるとともに、手話通訳者等及びその指導者の確保、養成及び資質の向上を図るものとする。
(聞こえ等に関する相談への対応及び支援)
第13条 県は、県民からの聞こえ、補聴器具等に関する相談を受け付け、また、支援を行うための拠点の整備及び充実を図るものとする。
(事業者への支援)
第14条 県は、聴覚に障害のある人が利用しやすいサービスの提供及び聴覚に障害のある人が働きやすい環境の整備等を行う事業者に対し、必要な支援を行うよう努めるものとする。
(意思疎通手段に関する調査研究)
第15条 県は、聴覚に障害のある人等が意思疎通手段の発展に資するために行う調査研究の推進及びその成果の普及に協力するものとする。
(財政上の措置)
第16条 県は、意思疎通手段の普及及び利用の促進に関する施策を推進するため必要な財政上の措置を講ずるよう努めなければならない。
附則
この条例は、公布の日から施行する。