県教育委員会では、全県規模で「先進的ICT利活用教育推進事業」に取り組んでいます。
そこで今回、佐賀県教育週間(11/1~7)を活用して、現在県内各地で推進中のICTを利活用した新たな教育改革の取組を一堂に集めて、教職員をはじめ広く県民の皆さまに紹介するために「合同成果発表会」を開催しました。
本会の具体的な内容は、以下のとおりです。
〔概要〕
1 期日 平成23年11月5日(土曜日)
2 場所 国立大学法人佐賀大学教養1号館
3 日程
(1) 全体会 9時30分~10時00分
県教育委員会挨拶
先進的ICT利活用教育推進事業概要説明
(2)分科会
(ア)成果発表1 10時10分~10時40分
西与賀小学校(総務省フューチャースクール推進事業) 講師:大家淳子推進員(西与賀小教諭)
致遠館中・高校(先進的ICT利活用教育推進事業) 講師:江口修指導主事(致遠館中教諭)
金立特別支援学校(あきちゃんの魔法のふでばこプロジェクト) 講師:吉田純治教諭
太良高校(ICT活用事業) 講師:山口孝教頭、今田康光教諭
神埼市(神埼市の取組) 講師:馬原俊浩指導係長
(イ)成果発表2 10時50分~11時20分
赤松小学校(総務省絆プロジェクト佐賀市代表) 講師:横地千恵子推進員(赤松小教諭)
致遠館中・高校(先進的ICT利活用推進事業) 講師:坂本明弘推進員(致遠館高教諭)
ろう学校(あきちゃんの魔法のふでばこプロジェクト) 講師:宮原昌佳教諭
佐賀大学セミナー1(~12時) 講師:草場聡宏准教授(外部アドバイザー)
(校内研修の在り方、支援体制の確立方法 他)
佐賀大学セミナー2(~12時) 講師:渡辺健次教授(外部アドバイザー)
(情報モラル、情報セキュリティ 他)
(ウ)成果発表3 11時30分~12時00分
山内東小学校(総務省絆プロジェクト武雄市代表) 講師:白石義秀教諭
大浦中学校(先進的ICT利活用推進事業) 講師:古川善隆教諭
致遠館中・高校(先進的ICT利活用推進事業) 講師:宮地浩幸教諭
(3)シンポジウム 13時00分~14時30分
テーマ「佐賀から始まる新たな教育改革、ICT利活用教育推進事業」
コーディネーター:佐賀新聞社編集局長 富吉 賢太郎
パネリスト:新井健一(ベネッセ教育研究開発センター長)
横尾俊彦(多久市長)
上野景三(佐賀大学文化教育学部長)
江口浩文(佐賀市立西与賀小学校長)
福田孝義(教育情報化推進室長)
(4)ICT機器展示
全体会、分科会、シンポジウムと並行して、ICT関連企業による機器の展示、実演等を行い ました。
4 主な内容
(1)全体会について
県教育委員会挨拶 志岐宣幸(しきのぶゆき)副教育長
主催者を代表して、県教育庁志岐副教育長から、「本会は、佐賀大学との連携の一環として開催していること、また、佐賀県教育週間の中の取組の一つである」との説明がありました。
続いて、副教育長は、「各地域、各学校でのこれまでの研究の成果を共有することで本県におけるICT利活用教育に対する取組を今後さらに前進、発展させていくための連携交流ができるものと考えている。また、このICT利活用教育を今後県内各地域の学校に浸透させて、まさに全県規模での取組として、拡大、発展させていきたい。そして、このICT利活用教育への取組が、全国のモデルとなるような『佐賀県スタイル』として、今後発展していくことを祈念している。」と挨拶がありました。
【先進的ICT利活用教育推進事業概要説明】 教育情報化推進室 福田孝義(ふくたたかよし)
福田室長からは、県が取り組んでいる「先進的ICT利活用教育推進事業」についての事業説明がありました。
主な内容は以下のとおりです。
先進的ICT利活用教育推進事業は、今年度正式にスタートした。平成19年に東南アジア 地方で発生した鳥インフルエンザを契機に、「仮に日本の学校で新型インフルエンザが発生した場合、約2ヵ月間学校が使えないという状況になる」との情報があり、その場合、どのようにして学習の場を確保するかについての検討を進める中で、ICT利活用教育に着眼した。
県教育委員会では、平成20年から韓国の教育事情の視察を行っている。韓国では、 1999年からICT利活用教育がスタートしているが、そうした取組もありPISA調査等でも日本を上回る好結果をあげている。21世紀は高度情報化、国際化社会である。次世代を生きていく子どもたちのため、情報活用能力や情報機器の活用といった教育も必要である。佐賀県は、学力向上の施策の一つとしてICT利活用教育を考えている。
国の情報化の流れは、2006年以前から計画がある。今回の動きは原口ビジョン1・2がステップ。国では、フューチャースクール推進事業等を通して、平成32年度までには、全ての子どもがタブレットPCを持ち、全ての教室に電子黒板が設置されているという状況を想定している。こうした動き等も踏まえながら、佐賀県では事業を進めている。
- なぜICT利活用教育が必要か。ひとえに教育の質の向上のため。教育の質の向上とは、学びの質の向上、教師の指導の質の向上、学校運営の改善・事務負担の軽減ということで、子ども・授業・学校が変われば教育の質が変わると考える。
- 2008年の国調査によると、教師の年齢構成が問題だ。10年後には、働き盛りの先生たち(30~40歳代)が激減する。質の高い教育を維持するためには、次の世代を担う人材の発掘と育成が急務。すぐにでも取り組まないと間に合わない。今、できることは確かな教授法の保存と伝承である。ICTは、大切な授業の保存・再現にも有効である。
- 佐賀県では推進にあたって、致遠館中学校、太良町、玄海町、中原特別支援学校を中心に実証研究を進めている。今回フューチャースクールの指定を受けた武雄青陵中学校でも間もなく本格的に始まる。最終的には全ての県立学校で、致遠館と同じような環境で学習ができるようにしていきたい。
- 先日決定された「佐賀県総合計画2011」に、これから平成26年度まで佐賀県の教育の柱としてこの事業を進めていくことが明記されている。現在、推進体制の整備や教職員の研修に取り組んでいるが、平成25年度を目途に行っていきたい。
- 平成23年度は、致遠館中学校・高等学校、中原特別支援学校、武雄青陵中学校・武雄高等学校、玄海町と太良町の主に中学校、佐賀県教育委会とが連携をしながら事業を進めている。他にも、総務省フューチャースクール推進事業校(西与賀小学校)、絆プロジェクト(佐賀市2校・武雄市2校)、東大との連携事業(県立ろう学校・金立特別支援学校)、新太良高校でのICT利活用実践とも連携をしている。
- 参考として、フューチャースクール推進事業は全国で20校あるが、そのうちの2校(小学校と中学校)が佐賀県にある。本発表会のタイトルのとおり「~佐賀から始まる新たな教育改革~」と銘打ち、「佐賀モデル」の構築に取り組んでいきたい。
- 佐賀県がめざす姿は、学校と家庭、教育委員会が一体になって取り組んでいくこと。県立学校のネットワークだけでなく、結果的には、市町のネットワークもつないで、県立・市町立問わず一斉に対応できるようにしていきたい。
- そのためにはLMS(学習管理システム)、LCMS(学習教材管理システム)、校務管理(支援)の3つを統合した基幹システムが必要。日本には、現在こうしたシステムはまだないため、このシステムを1年で開発し、平成25年からは全県で実施できるようにしていく。システムが完成すると、学校・教育委員会・家庭が一体となった指導が可能となる。
- LMSについて、現在致遠館で稼働しているシステムを例に挙げると、タブレットPCで子どもたちが手書きで小テストに取り組むと、自動で採点・分析までできる。朝の5分間テストなども非常にやりやすい。
- 致遠館に導入した電子黒板は、既存の黒板と併用できるように、スライド式で設置している。こうすることで、既存の黒板と電子黒板を指導内容に応じて活用することができる。なお、致遠館中学校のユビキタスルームには電子教卓(教卓にパソコン機能を組み込んだもの)も入れている。
- 致遠館中学校の子どもたちは、指でタッチして使ったり、専用のペンで書き込みしたり、または無線接続のキーボードで入力をしたりしている。
- 情報モラル教育についても積極的にやっていく必要がある。国や文部科学省のホームページにアクセスすると、利用できる教材がたくさんある。PCを使うという前提に立ち、その活用方法を指導する中で、子どもたちにリテラシーや情報モラルを身に付けさせていきたい。
(2)分科会について
(ア)成果発表1について
5会場において、分科会形式により、以下のとおり、小・中・高・特別支援学校、市教育委員会、大学から、合計13の実践発表やセミナーがありました。
【西与賀小学校(総務省フューチャースクール推進事業)】(外部リンク)
講師:大家淳子(おおいえじゅんこ)推進員(西与賀小教諭)
西与賀小学校の大家教諭(ICT利活用教育推進員)は、「電子黒板と児童一人1台タブレットPCを活用した学びと展開」というテーマで話されました。西与賀小学校は、総務省フューチャースクール推進事業の実践校であり、全児童・全職員に専用端末(タブレットPC)が配備されています。
手元でのデジタル教材の操作、ペンでの手書き入力といった学習者用端末の特性を紹介されました。
大家教諭は、「ICTの利活用教育を進めていくうえで、創作的な活動や体験的な活動が大切なことには変わりないし、ICT機器が黒板やノートなどこれまで使ってきた教材教具にとってかわるものではない」と話されました。
【致遠館中・高校(先進的ICT利活用推進事業)】
講師:江口修(えぐちおさむ)教諭(致遠館中教諭兼、教育情報化推進室指導主事)
致遠館中学校の江口教諭からは、中学英語科における「授業の組み立て方」「電子黒板、タブレットPCの活用例」についての報告がありました。
「授業の組み立て方」については、Presentation→Practice→Productionの流れになっているか、Listening,Speaking,Reading,Writingの四技能の割合は適切か、そして技能間を統合した活動が組み込まれているか、等に留意する必要があると述べられました。「電子黒板、タブレットPCの活用例」については、音読や本文の解説、内容理解の場面での事例が具体的に紹介されました。
江口教諭は、「ICTそのものが学力を向上させるのではない。活用のタイミングなど授業デザインが大切だ」と語られました。
【金立特別支援学校(あきちゃんの魔法のふでばこプロジェクト)】
講師:吉田純治(よしだじゅんじ)教諭
金立特別支援学校の吉田教諭からは、肢体不自由のある児童生徒へのiPadを利活用した実践発表がありました。
ハンガーを利用した手作りのポインタを操作することで、意図的に頭部を動かし、機器を操作する児童の事例や座位を保持することが困難な児童が腹臥位のまま機器を操作し、明確な意思表示を行う事例などが紹介されました。
肢体不自由児童生徒の学習や生活の困難に対応した新たな取組を通して、「たくましく生きていく力」を育もうとされていました。吉田教諭は、「今後、機器を利活用することで学習機会が増え、子どもたちの能力をより引き出せるとともに、卒業後を視野に入れた実践が可能になる」と述べられました。
【太良高校(ICT活用事業)】
講師:山口孝(やまぐちたかし教頭、今田康光(いまだやすみつ)教諭
太良高校の山口教頭、今田教諭からは「ICT機器の活用で広がる授業のユニバーサルデザイン」について実践報告がなされました。
太良高校では、多様な学びを可能とする教育環境づくりを実践しており、自己肯定感の低下を防ぐとともに、成功体験を多く積むことに取り組まれています。ICT機器による学習支援も充実しており、全ての普通教室には電子黒板が設置されており、加えて、ニンテンドーDSを設置した教室、eラーニングシステムなどを用いながら、「できる授業」を実践しています。
今田教諭は、「ICT機器は『できる授業』を支える重要なツールだ」と話されました。
【神埼市(神埼市の取組)】
講師:馬原俊浩(まはらとしひろ)指導係長(神埼市教育委員会)
馬原指導係長からは、「学校におけるICT利活用と今後の展望」という題目で神埼市教育委員会の取組についての報告がありました。
神埼市では、いち早く教育の情報化に取り組まれており、市教育委員会と市内の学校をネットワーク化し、情報の一括管理がなされているということでした。校務の情報化に際しての、機器導入の手続きや情報の管理、情報セキュリティのついての説明がありました。
また、授業の情報化の取組については、不登校支援、学び合いの手立て等について実践事例を交えての説明がありました。授業の情報化には、従来からの指導観からの脱却が必要な「ICTで学ぶ」という側面、児童に今後必要となる能力を身に付けさせるための「ICTを学ぶ」という二つの側面があると述べられました。
(イ)成果発表2 10時50分~11時20分
【赤松小学校(総務省絆プロジェクト佐賀市代表)】
講師:横地千恵子(よこちちえこ)推進員(赤松小教諭)
赤松小学校の横地教諭(ICT利活用教育推進員)からは、電子黒板や学習者用端末(タブレットPC)を利活用した授業の実践発表がありました。
電子黒板の利活用では、課題をつかませる場面で教材を大きく映したり、思考や理解を深める場面では、カメラ機能で児童のノートを撮り、拡大して見せたり、知識を定着させる場面でデジタルコンテンツやデジタル教科書を活用したりと、それぞれの場面に応じた有効活用法を紹介されました。
また、学習者用端末(タブレットPC)は、インターネットでの調べ学習や協働学習において有効なツールであることを示されました。
最後に、「授業のどの場面に、どんなふうにICT機器を取り入れるかをしっかり考える必要がある」と課題を述べられました。
【致遠館中・高校(先進的ICT利活用推進事業)】
講師:坂本明弘(さかもとあきひろ)推進員(致遠館高教諭)
致遠館中学校の坂本教諭(ICT利活用教育推進員)からは、高等学校数学科におけるICTを利活用した授業実践が報告されました。
ICT機器を利活用するにあたって、生徒の興味関心を引き出し、知ろうとする意欲、学びに向かう力を育成することを念頭に、「円錐曲線」や「加速度運動」の授業例が示されました。
生徒たちは「グラフや立体のイメージがつかみやすかった」という感想を持ったようです。坂本教諭は「これからは、状況に応じて、従来の黒板と電子黒板の併用が望ましい。綿密な授業計画を立て、どの場面で活用すれば効果的かを見極め、学力の3要素を鍛える場面を作りたい」と述べられました。
【ろう学校(あきちゃんの魔法のふでばこプロジェクト)】
講師:宮原昌佳(みやはらまさよし)教諭
ろう学校の宮原教諭からは、ICTの利活用の取組の現状について報告がなされました。
幼稚部、小学部、中学部、高等部のそれぞれでよく使われている学習ソフトについて紹介があり、特に国語や社会、算数でよく活用されていました。ただし、「たくさんの学習ソフトの中から必要なものを探し出すのはたいへんだった」とのことで、支援員の力添えを得ながら実践が進んでいるようです。
宮原教諭は「児童生徒のiPadに対する興味関心は高く、自分の学習レベルに応じた内容を取り組むことができる点で有効だ」と話されました。また、ろう学校ではこのiPad活用とは別に、テレビ会議システムやDVDを用いて多くの視覚情報を扱う等、授業展開を工夫されています。
【佐賀大学セミナー1(~12時00分)】
テーマ:校内研修の在り方、支援体制の確立方法 他
講師:草場聡宏(くさばときひろ)准教授(外部アドバイザー)
田中泰博(たなかやすひろ)推進員(佐志中教頭)
佐賀大学文化教育学部の草場准教授からは、佐賀大学セミナーとして、「学校現場におけるICT利活用に向けた課題」について文部科学省の調査結果などを使っての報告がありました。
また、唐津市立佐志中学校の田中教頭(ICT利活用教育推進員)からは、校内研修の内容について具体的な報告がありました。
各学校でのICT利活用を進めていくためには、校内研修を地道に進めていくと同時に、学校に配置されるICT支援員と協働していくことが重要であり、ICT支援員自身もICTに関する知識だけでなく、新しい授業の内容や方法など「学校教育」に関しての知見や対人コミュニケーションを高めていくことが必要であるとの説明がありました。
後半は、実践事例などについてセミナー参加者どうしで活発な情報交換が行われました。
【佐賀大学セミナー2(~12時00分)】
テーマ:情報モラル、情報セキュリティ 他
講師:渡辺健次(わたなべけんじ)教授(外部アドバイザー)
佐賀大学大学院工学系研究科の渡辺教授からは、佐賀大学セミナーとして、情報モラル・情報セキュリティについての話がありました。
まず、私たちが、何気なく使っている「情報」という言葉について、深く掘り下げて説明され、情報セキュリティについては、様々なウィルスから大切なデータやPCを守るには、脅威となるセキュリティホールを放置しないことが重要であるということでした。
そして、情報モラル教育は、このような情報セキュリティ等の「知識や技能」、「判断力」、そして「心」をバランスよく育成することが肝要であるとの説明がありました。
(ウ)成果発表3 11時30分~12時00分
【山内東小学校(総務省絆プロジェクト武雄市代表)】
講師:白石義秀(しらいしよしひで)教諭
山内東小学校の白石教諭からは、「児童が生き生きと学習するiPadの活用について」というテーマで実践発表が行われました。4年生以上の児童全員にiPadが配備されている山内東小学校では、学習ソフトでの計算学習やオーケストラの模擬学習、インターネットでの調べ学習など、一人ひとりの児童がiPadを使って自ら課題を解決していく授業実践を紹介されました。
今後は、保健分野での学習ソフトの活用や市立図書館との連携など、活用の幅をさらに広げていく計画を話されました。
【大浦中学校(先進的ICT利活用推進事業太良町教育委員会代表)】
講師:古川善隆(ふるかわよしたか)教諭
大浦中学校の古川教諭は、「太良町立大浦中学校における「教育の情報化」の取り組みと成果」と題して、電子黒板を利活用した授業実践を中心に報告がなされました。
古川教諭は、電子黒板を活用した理科における実践例として、目で見ることができない事象・現象について、シミュレーションを使ってイメージ化を図る授業を紹介されました。また、大浦中学校では、授業だけでなく、朝の会や給食の時間などでも生徒が自由自在に電子黒板を操っている様子を紹介されました。
また、太良町内の町立学校には、校務支援システムが導入されており、先生方の校務の負担軽減につながっていることを意識調査の集計結果をもとに示されました。
【致遠館中・高校(先進的ICT利活用推進事業】
講師:宮地浩幸(みやちひろゆき)教諭
致遠館中学校の宮地教諭からは、「ICT機器の利用と理科教育」と題して、電子黒板を利活用した授業実践が報告されました。
板書の保存性の高さや視覚的に訴える力の強さなど、電子黒板の有効性とともに視線を集めることができる反面、生徒が自分のノートを取らなくなったり、機器の不具合が生じるとタイムロスしてしまったりするなどの課題も紹介されました。
宮地教諭は「ICT機器で教員は授業のパフォーマンスを上げることができ、学力の現状分析に有効に活用できる」と締めくくられました。
(3)シンポジウム
午後のシンポジウムでは、これからの佐賀の教育の在り方、特に、ICT利活用教育による児童生徒の学力向上の目標達成という観点から、各方面で御活躍の皆さまにお集まりいただき、議論していただきました。
主に「本県の学校に学ぶ児童生徒の学力向上の目標達成のために、ICTをどう活用するか」、「今後、ICT利活用教育を推進するための留意点」という観点から、
(ア) ICT利活用教育についての基本的な考え方
(イ) 佐賀県の学力向上に向けて、ICTをどう活用していくか
(ウ) ICT利活用教育の課題点など、これだけは言っておきたいこと
について協議が行われました。
シンポジウムテーマ:「佐賀から始まる新たな教育改革~先進的ICT利活用教育推進事業~」
コーディネーターとパネリスト紹介
〔コーディネーター〕富吉 賢太郎(とみよしけんたろう)氏
佐賀新聞社編集局長(今年4月から現職。)、県教育委員会の運営状況の点検・評価における有識者委員
〔パネリスト〕新井健一(あらいけんいち)氏
ベネッセコーポレーション執行役員、社団法人「日本教育工学振興会」常任理事。「日本教育工学会」評議員
横尾俊彦(よこおとしひこ)氏
多久市長(平成9年から現職。4期目)、佐賀県の市長会会長
多久市では、小中学校の全普通教室に電子黒板を整備するなど、積極的にICT利活用教育が行われている。
上野景三(うえのけいぞう)氏
佐賀大学文化教育学部長(平成20年7月から現職)、県教育委員会の運営状況の点検・評価における有識者委員
江口浩文(えぐちひろふみ)氏
佐賀市立西与賀小学校長、平成22年から総務省フューチャースクール推進事業の実証研究校としてICT利活用教育に取り組んでいる
福田孝義(ふくたたかよし)氏
県教育庁教育情報化推進室長(教育情報化推進室は今年4月に新設。)
【シンポジウムにおける各氏の主な発言内容】
(ア)「ICT利活用教育についての基本的な考え方」について
(富吉賢太郎氏)
- かつては教育県佐賀と呼ばれ、日本中が注目していた。今、ICTをきっかけに、まさに全国に発信していこうとしているのだと言えるかもしれない。
(新井健一氏)
- ICTを使っているか(第5回学習指導基本調査によると、教師の使用頻度は上昇しており、利活用が進んでいる。一方で、先進国と比べるとまだまだ低い現状がある。)効果があるかという議論はもう終わりにしよう。これからは、どう使ったらいいかを出し合いたい。日本全体のレベルを上げる必要があると感じている。あれかこれか、あるかないか、という二項対立の発想を変革したい。
- 機器を入れただけでは学力は上がらない。佐賀県が取り組もうとしていることは、日本全体のアベレージを上げるためにも重要なことである。
(横尾俊彦氏)
- デジタルネイティブの実態について、我が子を見ながら我が家でも実感している。
- 多久で、ICTを利活用した授業を見学した際、子どもたちの集中力や授業に対する高い意欲を感じた。
- 先日のシンガポール視察に参加したが、改めてコミュニケーション能力、 言語力、理数になじむ力、クリエイティブな感覚が重要だと感じた。
- 一番大切な力は、先生の力だと思っている。先生自らが人格・人望を示すことこそが教育だ。多久では、孔子の教えである「智」・「仁」・「勇」を育てながらICT利活用教育に取り組んでいる。
(上野景三氏)
- 現場が求める質を踏まえてICT利活用教育を進める必要がある。
- 教員養成の立場から、教育実習の中で、ICTを利活用した授業実習を必修化する準備を進めており、今年教員採用試験に合格をした4年生には集中講義を通し、ICTスキルを高めてから教育現場に送り出すつもりである。将来的に「特別な課程」として開設し、必修単位化するよう準備中である。
- 職員研修の立場から、10年研や教員免許更新講習の中で講座を開設している。
- ICT支援員の養成に携わったり、先進的ICT利活用教育推進事業の外部アドバイザーを引き受けたり、県教育委員会と連携協力を図っている。
- 校内研修等では、教育センターだけでなく大学も活用してもらいたい。
(江口浩文氏)
- 来年度、フューチャースクール推進事業は終了する。公開授業を行うとともに、広く県内外の学校や保護者等の理解を深めていきたい。
- ICT機器は、「利用」程度の軽い気持ちでいい。操作をためらいがちな年配の先生には、アイデアを出してもらい、うまく調和がとれている。
- ICTを利活用する上で、「教師と児童の関係づくり」、「教師の指導力」、 「アナログとデジタルの良さを生かすこと」の3つを大切にしている。
- ICTは道具であり、教師の指導力や教材研究は欠かせない。効果的に使ってこそ、意味がある。
- 本校の実証研究には、全職員が参加をしている。ICTが教えるのではない、教師の力こそが問われるのだと感じている。
- ICT機器を効果的に活用することが大切だ。学級経営を助けたり、教科目標を達成したりする道具である。
- 電子黒板でその箇所その箇所を確実に理解させていき、従来の黒板では授業の全体を俯瞰させていくというように、子どもたちにはアナログとデジタルのそれぞれの良さを意識させていきたい。
(福田孝義氏)
- 産学官の連携を図り、佐賀モデルとしたい。今回の発表会にも国内の企業をはじめ、韓国企業からの展示もしていただいた。
- ICT利活用教育は、効果があることを見据えたうえで実践している。
- 今年は韓国とシンガポールへの二か所の視察を行ったが、学校は韓国、制度はシンガポールにみるべきものがあった。
- 次の世代を生きる子どもたちをどう育てるかということを考えながら取り組んでいる。
- これからの教育には、教育工学の視点が必要だ。ICT機器をどこでどう使えば効果があるか、そういった実践研究が重要になってくる。
(イ)「佐賀県の学力向上に向けて、ICTをどう活用していくか」について
(富吉賢太郎氏)
- ICT利活用教育といえども、根底は、先生の力量の問題である。どこでどう使うかが大切だ。
(新井健一氏)
- これまでの実証研究の結果によると、「自己主導的学習能力」いわゆる自ら学ぶ力を育成することが大いに期待できる。また学習時間が伸びたという調査結果もある。
- 軸足は、教育目標をどう達成するかということだ。その意味では、支援員の配置や機器の操作に関するノウハウや技術は二の次。教師の熱意が一番重要だと考える。
(横尾俊彦氏)
- 授業をオープンにすることが必要だと思う。
- 管理職の先生方は、自分が使えないからといって心配することはない。松下幸之助氏によると、「組織のリーダーになる条件は、その組織がこれからやろうとしている新たな貢献を、誰よりも強く願って誰よりも強く実現したいと熱意がある人。技術はあとでいい」ということである。
(上野景三氏)
- ポケベル、ムーバーの世代…など、新しいツールは次々に普及している。では、その都度、学力が上がったのだろうか。学力の測定 と機器の活用能力で、ばらつきが見えてくるのではないか。どうやって使わせるかが課題である。
- ちなみに、大学入試センター試験の結果と大学卒業時の成績は相関しないことがわかった。興味深いことに、1年の前期試験の成績と強い相関がみられる。
- 学生にどういった能力が埋まっているかということを見たい。これまでは、教員としての経験と勘だけで判断してきたが、4年間の学習の軌跡を考えるツールとして活用すると、有効な機能である。
(江口浩文氏)
- 一人ひとりに学習者用端末(タブレットPC)を持たせることで次のようなことを可能にしなければならない。
- ドリル等による基礎学力の定着を図ること。自分の学習ペースや学習レベルを保つことができる。
- 学び合いを保障すること。つまり、子どもたち同士がお互いに学び合う十分な時間を確保してやることが必要だ。協働学習を充実させるためにも、ギリギリまで考えることができる時間を捻出することが可能になる。
- 一人学びの道具として活用すること。子どもが復習するすべがない、ノートが残らないでは、家庭において一人で学ぶことができなくなってしまう。
(福田孝義氏)
- シンガポールはトップ人材の養成を掲げ、韓国は全体を底上げ し、広く全国民へ浸透させていくスタンスで、ICT化が進められている。こうした諸外国の先進事例等も参考にしながら、佐賀県ならではの新システムを構築する。校務支援、LMS、LCMSの三つを統合したシステムの開発を進めている。
- 特別支援教育にもICTが非常に有効である。東京大学先端科学技術研究センターの中邑教授とも連携をして実証研究に取り組んでいる。
- 県と市町の関係では、県が直接関与できることとできないことがある。機器を含めた環境整備が課題であることは十分承知しているが、県と市町が歩調を合わせることでうまい方法が見えてくると信じている。
(ウ)「ICT利活用教育の課題点など、これだけは言っておきたいこと」について
(富吉賢太郎氏)
- 例えば、パソコンの「待ち受け画面」は、それぞれ使う人の心の慰め、人間の休めるところのものとなっている。つまり、佐賀が本当の意味でICT利活用教育おいて「先進的である」というのなら、そういう面での配慮も必要ではないか。
(新井健一氏)
- ベストではなくベターをねらう姿勢が大切だ。「それしかない」という発想ではなく、「そうした方が効果がある」という考え方の方がいい。
- 当然、教育目標を達成することが一番のねらいであることは間違いない。かたや、大人の情報リテラシーを鍛える必要がある。どのようなトレードオフ(二律背反)があるのかという眼差しも大事だ。
- アジアの教育、例えば、世界トップクラスに位置する香港大学にしても、日本がルーツ。日本は自国の教育の在り方にもっと自信を持っていい。
(横尾俊彦氏)
- 先生方の報告書作成などの事務作業を減らしたい。
- 子どもたちに育成する力としては、「書く力」が大事。基本はきちんとした読書にあると思っている。
- また、これだけ情報があふれている時代であるから、レファレンス能力の育成も急務だ。
(上野景三氏)
- 個別学習の可能性を感じている。個々の児童生徒には、学力的なアンバランスがある。実証研究では、例えば、全体の平均が上がれば、それでよしとするのか。それだけではなく、学習者用端末(タブレットPC)の使用することで一人ひとりの学習状況に応じて対応できる可能性を見出せるかが検証のカギだ。
- また、学年経営(中学校等)の面で、情報を共有するシステムとしても有効だろう。
(江口浩文氏)
- 機器の整備が問題だろう。市町でできること、県で整備を促してくれること。そういう互いの連携が大切だろう。
- 支援員のことで企業へのお願いがある。支援員は教師のアイデアを具現化してくれている。常駐が望ましいが、待つ必要はないと思っている。なぜなら教育は待っていられないからだ。そこで企業でしっかりとした支援員を育成してほしい。そのことで県の水準を維持することがたやすくなる。
(福田孝義氏)
- 全ては学力向上のため。これまで行ってきた教育の良さは残しつつ、ICTを使って、より良くなるところを見つけ出す取組を続けてほしい。制度・体制の整備は、行政の役割だが、実際の指導に当たるのは、学校の先生方である。それぞれに応じた指導力を高めていってほしい。