5 主な内容
○ 教育委員会説明
佐賀県教育委員会 副教育長 福田 孝義
佐賀県教育委員会では、時代のニーズに対応した教育の推進として、「グローバル化に対応した教育の推進」「県立高校再編整備の推進」「特別支援教育の推進」とともに「ICT利活用教育の推進」に取り組んでいる。この事業については平成23年から取り組んできたが、今年4月からは県立高校1年生が自分用の学習用PCを持って登校している。平成24年度までに県立中学校、県立特別支援学校の小学部中学部についての整備は一通り終えた。昨年度は、市町からの要望等もあり、市町の取組を支援するための臨時交付金も準備した。電子黒板については、全市町が来年度までに全校全普通教室に設置を完了する計画をいただいている。
事業推進の背景としては、「高度情報化・グローバル社会に対応した教育の実現」や「21世紀型スキルを身に付けさせられているかの検討」、「通常の学校や教室外での質の高い教育の確保」がある。今求めるのは学力向上としては、教科に関する基礎学力の定着は当然のことで、そのうえで次世代を見据えた教育の実現が求められている。つまり、今、自分が指導している生徒が、自分の年齢になった時に社会で活躍しているかということである。
これまでの成果と課題について、かいつまんで申し上げると、電子黒板については、先生たちの指導法の改善につながったという声をよく聞く。一方で教材の準備や教材を作成する際のフォローが欲しいという声もある。学習用PCについては、従来通りの教え込む形だけだと十分にその特徴を活かすことは難しいかもしれない。キャッチボールのボールを生徒に投げてやるように、「考えてごらん」と生徒に投げかけてもらうなど、工夫して使ってほしい。授業のスタイルは変わるであろうが、一歩踏み出してほしい。
昨日の公開授業を参観した業者の方からは、多くのお褒めの言葉をいただいた。参加の先生方には今日の内容を参考にしてもらい、明日から一歩進んでいただきたい。
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○ 講演(リレー形式)
演題:「生徒一人一台の学習用PC導入の背景と情報モラル・リテラシー教育の必要性について」
講師:早稲田大学 人間科学学術院 教授 西村昭治氏
早稲田大学人間科学部は、従来の学問体系や学びのスタイルにとらわれず、より柔軟で学際的なアプローチで今日的な課題に挑戦するため、昭和の終わりに設立された。設立当初からインターネットにつながる環境があったが、2003年の学科再編で、PCが足りなくなったことをきっかけに、LAN環境を整えた。
人間科学部で学ぶ学問は、論文を書く際に、多くのデータを使用する。2013年にカリキュラムを大幅に変更し、現在はデータリテラシーに重きを置いたカリキュラムである。大学生としての基礎的知識・スキルを身につける「スタディスキル」は、入学直後はパソコンの設定などの「しつけ的なこと」に始まり、計8回でレポート作成やプレゼンテーションの仕方などについて学ぶ。道具を与えたからには指導が必要で、具体例を示すことでより真剣になる。
1年生の秋からはデータリテラシーを学ぶ。他の大学だと大学院で学ぶレベルを必修科目で学ばせ、非常に効果があった。どのような研究であっても、データをもとに卒業論文を書かなければならず、その基礎を1、2年で学ばせている。
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講師:NECマネジメントパートナー株式会社 山崎明子氏
企業は毎日セキュリティの脅威にさらされている。情報セキュリティ対策は、学校も企業も基本は同じ。企業は、「体制」+「研修」という形でセキュリティ対策を立てている。研修では、マインドの醸成が中心であり、「知っている」から「できる」へ進めること、繰り返して受けること、変化する攻撃に対して最新の対応ができることが重要。どのように守るかについては、「見える化」と「多層防御」が有効。数えられるものはしっかりと数えて管理し、「入口対策」「端末対策」「人的対策」を行う。
学校現場は学び方が変わることで、今までの枠を超えてセキュリティを検討する必要性が出てきた。学校現場も企業と同じく、「体制」と「研修」が重要である。そのうえで、「友達を傷つけるような使い方はしていないか」「学業を逸脱した使い方はしていないか」「コンプライアンス違反はないか」などに留意することが大切。異なる教室で喧嘩をしていることもあるかもしれない。
やはり、どのように守るかについては、「見える化」と「多層防御」が有効であり、国や自治体、企業のノウハウを利用すべきだが、最後は先生である。リスク管理のレベルは様々で、「容認」「軽減」「転移」「回避」などのレベルにあった対策で対応できる。情報セキュリティ管理のためには「ルールづくり、基準づくり」「管理体制づくり」「運用体制づくり」「人づくり」が大切。そして、「人づくり」のためには「情報リテラシー研修」と「それぞれの役割に応じた適切な行動」が必要である。
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講師(まとめ):日本マイクロソフト株式会社 文教本部長 中川哲氏
社会ではもちろんだが、学校現場でPCを使わないというのは、もはやリアリティがない。演題の「情報モラル・リテラシー教育の必要性」を中心に、西村先生からは大学の立場から、山崎先生には企業の立場から、実際にどのようなことをやっておられるか、そして学校現場はどうやっていくべきかを話していただいた。
情報リテラシーとモラルは、これからの社会を生き抜くために強く求められており、マイクロソフト社でも「公認デジタルリテラシーカリキュラム」を用意しているので、ぜひ試してもらいたい。ここではe-ラーニングコンテンツを提供しており、とりあえず認定テストを受けてみて、現時点のデジタルリテラシーを自身で把握してみるのもいいのではないか。
IT機器を「使えること」と「正しく使えること」は違うという意識が大切だ。
資料 (893KB; PDFファイル)
○ デジタル教材等の展示実演
・出展企業〔教材関連〕32社
○ 実践発表
◇県立学校代表
・佐賀県立佐賀東高等学校
佐賀東高校の取組概要として、まず、様々な校内研修会・講習会を開催したことが挙げられる。学校訪問等も多い。年度当初から、「NHKクローズアップ現代」の取材が数か月入り、9月に放映されたが、取材映像のごく一部しか使用されず、残念な内容であった。
各教科では工夫してICTを利活用した授業を行っている(授業での実践事例の紹介)。授業以外でも学習用PCを積極的に利活用しており、「学校便り」「学級通信」を学習用PCに配付することは、カラー化・ペーパーレス化につながり、校内読書会のテキスト選定にも、「SEI-Net」のアンケート機能を用いて省力化ができた。
「習うより慣れよ」の姿勢が、教師・生徒両者の学習用PC操作の慣れや利活用シーンの増加につながっている。生徒は休み時間にも学習用PCをよく使用している。自作教材作成には時間がかかるが、教師の努力と比例して、電子黒板と学習用PCの連動した授業により、生徒たちの学習に取り組む姿勢が積極的になった。授業がおもしろい、楽しいといった声もよく耳にする。
学校の枠を超えて県内の先生方との、授業形態や指導法の研究、教材の蓄積、指導事例の更なる共有が今後望まれる。
資料 (2464KB; PDFファイル)
・佐賀県立唐津南高等学校
唐津南高校の取組として、農業科・家庭科に絞って紹介したい。本校は24,25年度の実証研究校であったが、25年度の途中まではiPadの実証研究を行っていた。2年生の学習用PC(1年生の個人所有と同じ端末)は学校の備品であるが、朝のHR終了後から帰りのHRまで、休み時間も含めて自由に使用できる環境である。
本年度、職員には「教科ごとの特色を生かした活用を、自分の歩幅で焦らずに行う」という共通認識で、実践してもらっている。実証研究校の気づきとして、「実験実習のその場だけではなく、教室でも振り返りができるようデジタルで残すこと、技術の習得やプレゼンに使用すること」が有効であることが挙げられる。ソフト「OneNote」は、1時間程度の研修で先生方も使いこなせるようになり、非常に便利である(画像により「OneNote」の活用シーンを紹介、動画により各授業での様々な利活用シーンを紹介)。
農業部会としても、「著作権の壁」や「コンテンツ収集の壁」を取り除くべく、部会長から関係機関に対してコンテンツの提供依頼等を行った。今まではどちらかというと「PUSH型授業」中心であったが、これからは、ICT機器の有効性を活かし、生徒自身が必要な情報を引き出す「PULL型授業」への転換を図りたい。
・武雄青陵中学校
武雄青陵中学校は、平成23年~25年度に総務省「フューチャースクール推進事業」、文部科学省「学びのイノベーション事業」の実証研究に取り組んできた。主な実証テーマの中で、「災害時におけるICT環境の利活用方策と課題の抽出・分析」については、3か年の実証検証をもとに、本年度からさらに発展・拡充することを目的に取り組んでいる。
実践事例としていくつか紹介する(中学2年英語の授業におけるサウンドレコーダー機能の活用。タップによりその単語が消えるデジタル教科書の機能の活用)。自分で課題を設け、楽しく学習できるし、自分の声を客観的に聴き、繰り返して練習するなど、習熟度に合わせた学習も可能である。ただし、日本語訳がないために、意味も分からず繰り返している生徒もいる状況であり、今後、教師や生徒のニーズにより応えるソフトウェアの開発が望まれる。
本校は武雄高校と併設型中高一貫教育校でありながら校地が約1.6km離れているため、日常的な中高の交流が難しい状況であり、この距離をWeb会議システムで埋めようと考えている(生徒会活動の取組を紹介)。他にも「武雄高校の先生による本校3年生へのALL Englishでの英語Web授業」や「総合的な学習の時間」「部活動での交流」「Webチューター」の取り組み等がある。
今後の展望としては、「だれでも、いつでも、どこでもICT利活用教育が実践できる環境づくり」「協働学習のスタイルの確立」「デジタル教材の充実」「情報モラル教育の充実」が望まれる。
資料 (2185KB; PDFファイル)
・金立特別支援学校
金立特別支援学校では、「困難さの改善・克服のためのICT利活用」、「『明るく・正しく・たくましく』生きる力の育成」、「教職員の専門性向上」を意識して、ICT利活用教育に取り組んでいる。「明るく・正しく・たくましく」は校訓でもあり、「将来の自立した生活を目指す」という学校教育目標の達成手段の ために、ICT機器を利活用しており、個別の支援計画をもとに、実態に応じて、必要な場面で利用するよう心掛けている。
本校は職員数も多く、毎年、新任者は40名を数える。そこで、教職員一人一人の専門性向上のために、「新任者研修」や、キネクト等を用いた指導法を学ぶ「専門研修」、「実践事例報告会」等を開催している(動画等による実践事例の紹介。「キネクト(ジェスチャーや音声でパソコンを操作できる非接触型入力装置。当初ゲーム用として開発されたが、肢体不自由障害児者への活用が広がっている)」、「iPadアプリ うたえほん」、「iPadアプリ FaceTime」など)。ICT機器を利活用することで、意欲的に楽しく学習を進めることができ、学習用PCに触れ、画面や音等の変化を感じ取ることで、「認知」「運動・動作」「コミュニケーション」の力を高めることにつながった。継続していくことと、各授業の評価を行い、次回に活かすことが大切である。学習用PCの使用は、主に学習の効率を高めることに効果があり、電子黒板は、学習効果の高まりや活動に見通しを持たせること、認知力の向上に効果があった。
今後は、小・中・高等部で連携をとり、各学部を卒業しても、一貫した指導ができる体制づくりを行っていきたい。また、児童生徒の学習に適した環境づくりのために、「ハード・ソフト面の充実」「個に応じた補助具等の作成」「教職員のスキルアップ」「実践事例の蓄積」が必要だと考えている。
資料 (2221KB; PDFファイル)
◇市町教育委員会代表
・みやき町教育委員会
3町合併により「みやき町」になり、来年3月で10年になる。みやき町学校ICT整備事業について、導入経緯としては、平成25年に「みやき町学校ICT機器整備事業」に着手し、総工費440,475,000円で同年9月に完了した。大型電子黒板130台(84インチ埋め込み式と架台式)を整備し、タブレットPC648台、書画カメラ172台(先生方には非常に好評)を整備した。
平成24年度4月から、人口減少に歯止めをかけ、人口を増加させていくため、「定住総合対策事業」として”7つの取り組み”を行っている。定住促進への一環として、平成24年9月に子育て支援のまち宣言を行った。子育て支援に係る6つの重点項目を掲げ、種々の事業にとりくんでいるなかで、学校教育関係においては、「義務教育施設整備事業」として、ICT機器整備をはじめ、「トイレの洋式化」「普通教室等への空調施設整備」「学校給食再編強化」に取り組んできた。
みやき町ICT利活用推進協議会も立ち上げた。整備にあたり苦労したこととしては、「機器整備に伴う協議会の設置と教職員への意思徹底」「限られた期間でのシステム構築と機器整備」「学習端末の整備台数」「電子黒板の規格・設置形態」「サーバ構築の一括化とネットワーク構築」「学習支援システムの選定」「教職員へのシステム研修のあり方」等があるが、町長や議会の理解もあり、予算面・財政面での苦労はあまりなかった。
授業での活用例としては、「台風の進路調べ」「跳び箱の跳び方」などがあり、学習用PCや電子黒板を活用した(画像等で説明)。ICT推進リーダーを中心とした校内研修により、「授業中にICTを活用して指導する能力」も大幅に向上した。子どもたちも、より授業が分かるようになったと評価している。
今後の課題としては、「学力向上対策」「教職員の多忙化対策」「高等教育への円滑な移行」「継続的なICT環境の整備」がある。タブレットについては、児童生徒一人1台の整備には至っていないので、その必要性も含めて検討しなくてはいけない。ようやく機器整備を終わった段階ではあるが、機器更新経費の確保のための財源確保が喫緊の課題である。
◇茨城県つくば市派遣教員(多久市立中央小学校より派遣)
勤務校のつくば市立春日学園は、平成24年度開園の施設一体型小中一貫校。全校生徒数1,446名、教職員数88名である。小中両方の免許を持っている教員は兼務発令で、小中両方の授業を行うことができる。ICT機器の整備状況としては、タブレットPCが160台、大型電子黒板(液晶型)が14台で、「スタディーノート」「スタディーネット」「つくばオンラインスタディ」というグループウェアがある。
重点目標は二つ、「論理的思考力の育成」と「人とかかわる力の育成」であり、その目標を達成するために、積極的なICT利活用教育に取り組んでいる。また、「児童生徒が主体となって利活用する」「思考の可視化をする」を念頭に、先進的な取り組みを行っている。
つくば市の先進的ICT教育は、「4C学習」と銘打っており、それぞれ「Community(協働力を育てる取り組み)」「Communication(言語力を育てる取り組み)」「Cognition(思考・判断力を育てる取り組み)」「Comprehension(知識・理解力を育てる取り組み)」である(動画等を使用した具体的な説明)。つくば市全体での取り組みが大きな効果を上げており、「つくばスタイル科」では、発信型プロジェクト学習に取り組んでいる。「節電シールコンテスト」「プレゼンテーションコンテスト」は全生徒で取り組むなど、市内どの学校でも等質のICT利活用教育が推進されている。グループウェア「スタディーノート」「スタディーネット」の活用も、4C学習の目的の達成に大きな役割を果たしている。
全国学力状況調査結果を見てもB問題に大きな優位性が見られる。従来の学びから、「子どもが主体の協働的な学び」へと「学びのイノベーション」に取り組んでおり、成果を上げている。
資料(その1) (4414KB; PDFファイル)
資料(その2) (3478KB; PDFファイル)