始めに、鈴田滋人さんやその父である照次さんの作品が展示されている資料館をご案内いただきました。資料館に展示された木版摺更紗の着物を一目見て、その美しい姿に感動しました。木版摺更紗の特徴である繰り返された幾何学文様による洗練された緻密なデザインは、間近で見ると本当に心を奪われ、じっと見入ってしまいます。
木版摺更紗は、江戸時代の佐賀藩に伝わる鍋島更紗を元にしています。鍋島更紗は大正時代に一旦途絶えますが、鈴田さんの父・照次さんが、長年の研究によりその技法を復元されました。鈴田さんは、その技法を受け継ぎながら、デザインから制作まですべての工程を一人でされているとのことです。
木版摺更紗の美しい文様がどのようにして生まれるのかを伺うと「自然の草花などをスケッチし、そこから図案のイメージを作っていきます」とのこと。鈴田さんの実際のスケッチから、目の前にある木版摺更紗の文様ができていく過程を詳しくお伺いすると、佐賀のすばらしい自然や風物がその元になっていることや人の心を動かすようなデザインを生み出すための姿勢など、木版摺更紗の奥深さに触れることができ、ますますファンになりました。
その後、実際の木版と型紙を使って、文様の線と色を生地に付けていく過程をご説明いただきました。一つの作品で数千回に及ぶ手作業による繰返しは決してミスの許されないものです。その技術と精神力は私の想像をはるかに超える卓越した世界だと感じました。
鈴田さんからは「鍋島更紗を守り続けた佐賀藩の役割はとても大きかったと考えています。400年続く有田焼といい、昔から佐賀では美に対する意識が非常に高いものであったと思います」とのお話がありました。このような佐賀の歴史こそがたくさんの本物を生み、それが今も守り続けられているのだと思います。私も、しっかりとそれを受け継ぎ、佐賀の本物を大切にしていかなければならないと改めて感じました。
また、これからの伝統工芸分野を守り発展させていくために大切なことについてもお話を伺いました。「私たちの仕事は、皆さんから嫌いと言われたらおしまいです。そうならないために、中にいる者が真剣に一生懸命やっていかなければなりません」というお話や「これからの伝統工芸分野を担っていく、がんばっている若い方々をしっかりと応援してほしい」というお話をいただきました。私は、佐賀の伝統工芸のすばらしさを見つめ直し、もっと発信していくことで、がんばる担い手を応援していくことが大切だと思います。鈴田さんのように、伝統工芸分野の第一線で活躍されている皆さんのお考えも伺いながら、佐賀の自然と歴史が織りなすすばらしい伝統工芸の世界をもっともっと発展させていきたいと思います。