【中村コーディネータ】 会場の皆様より広く御意見をお伺いしたい。
問.通常の運転時に、私たちの生活にどういうふうに影響が出るのか。
【京都大学原子炉実験所 小出助手】
原子力発電所の原子炉の中には膨大な危険物質があります。でも、きちんと管理できている限りは被害が出ないし、風評被害も起きないはずです。MOX燃料にしたところで同じですが、MOX燃料に使われるプルトニウムはウランに比べて放射線の毒性が大変高く、もし管理に少しでも綻びが出れば、労働者が被曝したり、周辺の被曝が増えたりすることになると思います。機械は人間が想定した通りには動かない場合があることが心配なのです。
【中村コーディネータ】
その辺の管理は、国の監督責任もあるし、もちろん事業主体の九電の責任、これは皆さんも注目して見続ける必要があるだろうと思う。
問.身近な話で確認したいのが、例えて言えば、時速100キロで走ると脱線するカーブがあって、今までは時速60キロで走っていたところを、これからは時速62キロとか63キロで走るということでよいのか。時速が2キロ、3キロ上がると、確かに危険は増すと思うが、脱線しないというのも一つの見方だと思っている。
【九州大学大学院 出光教授】
例え話でいえば、車に乗る時に、一人で乗っている時は軽いのでブレーキがよく効くが、人を乗せたり、荷物をたくさん乗せるとブレーキの効きが悪くなるのと同じだと考えてもらえばいいと思います。ブレーキの効きがちょっと悪くなるという時は、運転中はちょっと深めに踏み込む、危ないときにはちゃんと止められるかを確かめる。プルサーマルの時もちゃんと原子炉は止められることを確認しています。ほう酸濃度をちょっと上げて、少し踏み込みを深くするという方法でコントロールはできます。
問.玄海2号機で燃料漏れがあったと思うが、もしプルサーマルを実施した後に燃料漏れが発生したらどのような現象が起こるのか。プルトニウムが発電所周辺に放出されるということがあるのか。
【九州大学大学院 出光教授】
燃料棒からプルトニウムとかウランとか、燃料自身が出てきたということではありません。ピンホールというのが開いて、核分裂生成物が冷却水の中で検出され、あるレベル以上に上がったということです。ただし、そのピンホールというのは、非常に小さくて目で見ても分からない。確率論的に言うと、燃料棒10 万本作ったらそのうち1本くらいにピンホールが開くかもしれない、それくらいのレベルになっています。
大きさ的には1000分の1ミリもない穴だと思いますが、目視でどこに開いたというのは見つかりません。漏れた核分裂生成物の量も非常に少なく、それも1次冷却水の中で、外側には全く出てきていません。例えMOX燃料にピンホールが開いたとしても、状況は変わらないというふうにご理解ください。
問.余裕は大事だから絶対残しとけという小出先生の指摘は、非常に分かりやすいが、要は程度問題じゃないか。 国の安全審査は、安全だという結論を出すためにやっていると、何かすさまじい話もあったが、ある技術的な限度というか、必要なものというのは、かっちり検証し、それに対して充分余裕があるということを確認していくのが、安全審査だと思う。
【美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 小山代表】
私が言いましたのは一つの例に基づいて、実際に自分も裁判まで起こした経験に基づいて蒸気発生器の例で言ったものです。蒸気発生器の細かい管が62%も損傷しているのに、新品と全く同じであるという安全審査にだんだん変わっていきました。安全解析が変わっていって、実は前よりも熱があまり出ないということが、新しい知見によってわかったとかいう理屈がつけられる。だけど常識で考えて、62%も損傷しているものが、新品と同然だと言われても絶対信用できません。
【中村コーディネータ】
今のご意見とご質問に対して、国の方からどのような姿勢で臨んでいるのか聞いてみたい。
【原子力安全・保安院 佐藤】
技術的に合理性があるかどうかというところが、安全性を判断するポイントだと思っています。こういった技術的な合理性を判断するものとして、様々な実験、経験などをベースに安全か、そうじゃないかを判断しています。
蒸気発生器は、今は、かなり新しいものに殆ど取り替わっており、損傷というのがなくなってきていますが、小山さんがいわれたように、昔は伝熱管が損傷していました。その際は、スリーブ、すなわちさや管を管の内側に当てて補修するとか、栓をして使えなくするという修理をやっていました。当然そういうことをやっていけば、解析上厳しくなっていくのは確かですが、そういう条件をベースに、冷却材喪失事故の時の燃料被覆管温度がどうなるかといったことについて、解析で判断しています。そして、判断基準を満足するということで、安全性を確認しています。
【美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 小山代表】
判断基準があり、それを満足するように解析方法をだんだん変えていったのが事実であります。
【原子力安全・保安院 佐藤】
解析というのは、より精緻の方に持って行くというのが、基本的な今の流れです。小山さんの出された解析は二次元の解析手法を使った古いケースです。最新の解析は、三次元でより詳細な評価が行えるようになってきており、より現実に近い評価が可能になっています。三次元で解析することによって、より精緻、現実のベースで評価できるようになってきています。
問.使用済MOX燃料の 放射能が半減するのに2万4千年かかると聞いている。使用済MOX燃料の処理方法がまだ決まっておらず、玄海町に蓄積されることになっている。2万4千年も安全に管理できると、一体誰が言えるのか。
【九州大学大学院 出光教授】
使用済MOX燃料の処理の技術的な話からいくと、プルトニウムが13%入ったものが処理できないかというとそんなことはありません。私が最初に実験した高速炉の使用済燃料には、プルトニウムが30%入っていましたが、何も問題なく再処理できています。実験的には原理的に確認できています。
MOX燃料は、しばらく貯蔵することにはなると思いますが、2万4千年貯蔵するという計画はありません。現在六ヶ所村で再処理工場を作っていますが、そこで通常のウラン燃料の処理をし、予定では2010年以降にプルトニウムがたくさん入ったような燃料の再処理プラントについて検討しようということになっています。
まず軽水炉燃料のうちのウラン燃料の再処理事業をやって、次にMOX燃料というふうに考えています。
【野口参事官】
国の方針としては2010年頃から使用済MOX燃料の処理について検討を開始する予定です。
問.人的ミスや科学者の予想を超えたトラブル、テロによる事故の危険性がある。その万が一の責任の所在はどこにあるのか。
【原子力安全・保安院 佐藤】
安全を確保する責任は一義的にはまず事業者にあると考えています。また保安院は安全規制を行うという観点からの責任が当然あると思っています。
万一事故が発生し周辺の方々に放射線による被害が及んだ場合の制度としては、事業者が全額を賠償するという原子力賠償法が定められており、600億円という額になっています。それを超える損害に対しては、必要に応じて国会の議決により認められた範囲の中で国が援助を行うという制度も用意してあります。
何よりもまず事故を起こさないというのが、第一ですが、万が一事故が起きた場合は、損害を賠償する制度も法的には用意してあります。
問.中国とか韓国の方が問題じゃないかという話があったが、外国のプルサーマルの安全性についての対応をどうしたらいいのか。
【中村コーディネータ】
中国、韓国は、プルサーマルまでいっていないが、セキュリティの問題と我が国ということで、森本さんにご意見を伺いたい。
【拓殖大学海外事情研究所 森本所長】
中国は、原子力の平和利用や環境問題についての法的枠組みが十分整備されておらず、被害が中国人民だけでなく、周辺諸国に及ぶ影響を考えなければなりません。
台湾、韓国は原子炉を持っており、インドネシアなどのアセアン諸国でも増えていきます。アジアのエネルギー需給が2020年以降非常に厳しくなり、原発を一定以上導入しないといけないという時、安全管理が充分でない点やプルトニウムが核兵器の原材料になるという問題が、アジア太平洋における地域の安定の非常に大きな課題の一つと言うことだと思います。