現在の大学入試の状況と佐賀県の教育振興について、県の認識をお尋ねいたします。
教育や人材育成の価値・成果というものは、大学入試の結果だけから判断できるようなものではないということは承知しておりますが、佐賀県の教育の現状には、大変厳しいものがあると感じています。一例を挙げますと、たとえば次のような点においてです。
■2024年大学入学共通テスト、5教科900点満点の平均点(※ベネッセ・駿台データネットの集計より)
全国:560.6
東京都:644.8
福岡県:555.5
佐賀県:492.7
九州沖縄:527.8
このように、大学受験時点で佐賀県の学力は、全国平均を大幅に下回っています。東京都からは900点満点で150点も下回っており、この差は現役生と浪人生の点差よりはるかに大きく、つまり、1年間浪人してもとうてい追いつけないほどの差です。かつ、深刻なのは、こうした格差が年々大きくなってきているという点です。もちろん、この点差が、生まれ持った能力などの、いかんともしがたい事情が理由で生じたものなら、諦めるしかありません。また、佐賀県は5教科受験が中心であるのに対して、大都市圏では5教科ではなく3教科型の受験が多く、受験教科数が少なければ得点を伸ばしやすいという事情もあるでしょう。しかし、データネットの結果を子細に分析すると、この点差の背景は「いかんともしがたい事情」ではまったくないということが分かります。教科ごとに見ると、国語については、佐賀県の平均点は全国平均点と遜色ありません。一方、他の教科については、全国平均点を大きく下回っています。国語は最も得点を伸ばしにくい教科であり、各生徒のポテンシャルを反映したものだと言えるでしょう。その国語では遜色ないのに、他教科で大きく負けているということは、「県の教育、生徒の学習が不十分であって、生徒は力を十分伸ばすことができていない」と言わざるを得ないのではないでしょうか。国語を含めて全教科負けているのであれば、「これはいかんともしがたい事情のせいだ」、「受験に臨む生徒の層やポテンシャルが違うのだから仕方がない」というように、諦めもつくのですが、実際にはそうではないのです。なお、「国語では遜色ない」というのは、ある意味では当然のことだと言えます。全国の大学進学率が58%であるのに対して、佐賀県のそれは43%であって、15ポイントもの差があります。(数値は佐賀県立大学についての資料による。)もちろん、必ずしも学力の高い生徒から順に大学に進学するというわけではありませんが、しかし、単純に考えて、100人のうち上位58人の平均点と、100人のうち上位43人の平均点なら、後者のほうが高くなって当然です。ですから、「大学受験に臨んでいる生徒」のポテンシャルについては、佐賀県は全国平均と大差なく、結果として国語の平均点も大差ないものとなっているのです。いずれにしましても、こうした事情を踏まえると、生徒の学力を十分伸ばすことができていないという佐賀県の課題はよりいっそう明らかです。
■佐賀大学医学部医学科への入学者
佐賀大学医学部医学科の入試では、卒業後に佐賀県内での医療に従事することを条件とした地域枠の設定など、地元の生徒を優遇する方策が取られています。しかし、それにもかかわらず、県内の高校からの佐賀大学医学部医学科への合格者数・入学者数は、減少傾向にあります。
■高校教員の認識
私は佐賀県の高校教員との情報交換や、高校に出向いての教員向け研修などを行ったことがあるのですが、しかし、現場の先生方は、上記のような課題ついて、つまり、大都市圏ならびに全国平均との格差の大きさについて、生徒をまだまだ伸ばせる余地があるという点について、将来の地域医療の担い手の育成・確保が危機に瀕しているという点について、ご存じない方が大多数でした。これは大変残念なことです。民間企業である学習塾の場合、生徒の学力低下、合格実績の低下は、即座に生徒減・売上減、人員整理、倒産につながります。もちろん学校教育に民間企業の経営思想を持ち込むというのは適切とは言えない面もありますが、しかし、現場の先生方がこうした重要な指標をそもそもご存じないというのは、さすがに問題ではないかと感じます。
■質問内容
以上のような点を踏まえて、下記についてご回答ください。
(1) 県として、大都市圏、全国、九州内の他県と比べて、佐賀県は高校卒業時点での学力が大幅に低い、地元の医学部にさえも十分合格できていないという認識を持っているか。
(2) もし(1)の認識がある場合、教員などの実際の教育に携わる者に、その認識がどの程度周知・共有されているか。
(3) もし(1)の認識がある場合、現状と格差を県民に広く周知して、ともに改善に取り組んでいこうというムードを醸成しようという意志はあるか。
(4) 県として、高校卒業時点での学力を今よりも伸ばしていかなければならないという認識を持っているか。
(5) もし(4)の認識がある場合、「いつごろまでにどれくらい伸ばす」といった具体的な目標はあるのか。
(6) もし(4)の認識がある場合、学力を伸ばすという目標に向けて、現在具体的にどのような取り組みが行われているのか。あるいは、今後どのような取り組みが予定されているのか。
教育力は、その地域の将来の発展を決定的に左右します。教育力が低い場合、人口流出や産業の衰退、財政や公共サービスの悪化といった悪循環につながります。現在の状況はぜひ何としてでも改善しなければいけません。
担当課の回答(令和6年12月10日)
お尋ねのあった県の教育振興と大学入試の状況について、いただいた質問に回答させていただきます。
佐賀県では国公立志向が強い傾向があり、大学入学共通テストは5教科での受験が主流です。多くの生徒が5教科を受験する場合と、3教科を受験する場合とでは、平均点も含め、結果が異なることはご指摘のとおりです。また、医学部医学科への合格者・入学者数は、医師を目指すかどうかというキャリアの選択も影響すると考えます。このため、平均点や医学部医学科の合格・入学者数をもって、必ずしも佐賀県の子どもたちの学力が「大幅に」低いとまでは言えないのではないかと考えています。
当然のことながら、大学受験力を高めることは重要ですし、高校での学びを通してしっかりとした学力を身に付けてほしいと考えています。
なお、大学入学共通テストの結果について、県教育委員会では、民間会社で作成されているデータだけでなく、教科ごと分野ごとに独自に集計したデータを用いて分析を行い、教員の指導力向上や生徒の学習支援につなげています。生徒の進路決定では、生徒と保護者の思いを汲みとりながら進路指導・相談を行い、生徒が納得感をもって自分で進路選択ができるよう支援しています。進路の目標は生徒一人一人で異なりますので、生徒を集団で捉え、県教育委員会として「いつごろまでにどれくらい伸ばす」というような目標設定はございません。
大学受験については、佐賀県総合教育会議でも議論をしており、県教育委員会の取組も紹介しておりますので、ご参照いただければ幸いです。
県教育委員会としては、一人一人の学習の到達度には幅がある中で、いかに授業の質を上げていくか、生徒の力を引き出していくか、引き続き、工夫を重ね、研究し、実践してまいります。