農業分野では昔から優良な品種同士を人工的に交配し、品種改良が行われてきました。
開発に係る主な流れ
【1955年以降、県内の山林から成長や形質等が優れたスギ(52個体)を選抜(以下、「精英樹」)】
・1965年以降、精英樹の人工交配(約300パターン)を行い、約10,000個体(F1実生苗)を作出
・1972年以降、F1実生苗検定林(5箇所)を造成
・1982年以降、F1実生苗が約10年生になった時、成長や形質等が優れた個体(109クローン)を選抜し挿し木により増殖
・1990年以降、挿し木により増殖した苗を用いてF1クローン検定林(7箇所:109クローン、約5,000個体)を造成
・2015年、F1クローン検定林から、更に成長量、材の強度、雄花量、挿し木発根率を総合評価し、優れた個体を次世代スギ精英樹として6クローンを選抜
・2021年3月、初期成長量及び木材の強度を詳細に評価し4クローンについて、育苗開始。(挿し木用穂木を佐賀県内の山林苗木生産者へ供給開始)
・2021年8月16日、4クローンのうちの1種を品種登録「佐賀林試2号」
・2021年10月、次世代スギ精英樹のネーミングを「サガンスギ」と発表
※令和4年1月18日商標登録済
・2022年2月、佐賀県山林種苗緑化協同組合を通じ、「サガンスギ」の苗木を佐賀県内に供給開始
サガンスギの主な特徴
このサガンスギの主な特徴として、
(1)成長が早い
(2)木材の強度が高い
(3)花粉が少ない
が、挙げられます。
それでは、それぞれの特徴について説明していきます。
1.成長が早い
従来のスギに比べ、成長速度が1.5倍あります。
例えば、植栽して3年目で樹高が従来のスギは1.5mに対し、次世代スギは2.7m、30年目で樹高が従来のスギは15mに対し、サガンスギは22mになりました。(試験地の結果)
このことから、育林コストの低減に繋がると考えられます。
従来は植栽してから5年間は下草刈りが必要だったものが、3年間で済み、間伐の回数も3回行っていたものが、1回で済みます。
早い成長により、早く成林できるため、最初の植栽密度も従来3,000本/haだったものを2,000本/haに減らすことができます。
更に収穫(皆伐)するまでに50年かかっていたものが30年で収穫できるため、収入のサイクルが早くなります。
このようなサガンスギの経営モデルを示したパンフレットを作成したので、下記の【添付資料】のところから御確認ください。
なお、佐賀県内においても、林地の条件(地位等)は多様であるため、現在、サガンスギを活用したその林地に合った施業方法を提案できる新しい林業経営支援システムを国と共同で研究中です。
2.木材の強度が高い
成長が早いということは、従来のスギより年輪幅が広くなります。
今まで木材業界では”年輪幅が広い木材は強度が低い”と言われてきました。
そこで、試験林の30年生のサガンスギを佐賀県内の製材工場で製材し、茨城県つくば市にある森林総合研究所で実大強度試験(破壊試験)を行い曲げヤング係数の測定を行いました。
試験の結果、サガンスギは従来のスギより強度が高いことがわかりました。
曲げヤング係数機械等級区分で言うと、従来のスギはE50程度の値を示すものが多く、サガンスギはE70~E90程度の値を多く示しました。
また、多くの品種を多数強度試験した結果、これまでの木材業界で知られているように、同一品種の年輪幅が狭い木材と広い木材での強度比較では、年輪幅が狭い方が高い強度を示すという結果でしたが、品種による強度の違いはとても大きいということが明らかになってきました。
このことから、サガンスギは年輪幅が広くても、従来のスギより高い強度を有する特性(材質)があることがわかりました。
木材業界では、年輪幅を表現する言葉として「目が詰まっている(年輪幅が狭い)、目が粗い(年輪幅が広い)」というものがあります。
年輪幅は、木材強度だけでなく「見た目」も重要で、木材の市場価値にまで影響を及ぼします。
つまり、年輪幅が広いと材価が安く売買される可能性が高いということです。
そこで、佐賀県内の木材・製材業者の方を林業試験場にお呼びして、サガンスギの製材品を見てもらいながら意見交換会を開催しました。
主な意見として、
・今回のデータを見る限りでは、問題なく使用できると思う。
・確かに年輪幅が広い。色つやはそう悪くない。
・大量生産した場合の人工乾燥による変形がどうなるのか。
・サガンスギだから強度が確保されるのであり、流通時は従来のスギとの区別が必要になるのでは。(トレーサビリティの問題)
などの意見が交わされ、見た目より性能の高さに感心されていました。
3.花粉が少ない
今や国民病の一つと言われる「花粉症(スギ・ヒノキ)」は、林業業界としても頭の痛い問題です。
間伐や皆伐等によりスギ・ヒノキの本数を減らす対策のほか、全国各地の研究機関で少花粉や無花粉スギの開発に取り組まれています。
このサガンスギは、花粉(雄花)の着花状況を判断する基準(雄花着花指数)に基づき、現在、山林で大きく育っている一般的なスギと比較した場合、一般的なスギ(指数3程度)→サガンスギ(指数1.1~1.5程度)となり、一般的なスギの半分以下の着花量になることがわかりました。
また、スギ全般に言えることですが、若いスギは雄花を付ける量が少ないため、現在、山林で大量に花粉を発生させている伐期を迎えたスギを計画的に伐採し、低コストで再造林を行い花粉の少ないサガンスギに植え替えていくことで、春に飛散する花粉の量を大幅に減らしていくことができると考えられます。
以上、サガンスギの3つの特徴について説明しました。
なお、これらに関する資料を別途添付するので参考にしてください。
今後、サガンスギの普及を推進することで、山林から計画的な収入が見込めるようになり、森林所有者が安心して森林経営をできる未来を目指します。
【添付資料】