平成31年4月26日告示
所在地 佐賀市松原2丁目5-22 公益財団法人鍋島報效会
所有者 公益財団法人鍋島報效会
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本作品は、江戸時代後期の武家階級の女性が着用した小袖地を転用して、後ろ腰を膨らませる着装で、19世紀後半に欧米で流行した”バッスル・スタイル”(bustle style)のドレスに仕立てたもので、白紗綾形紋綸子地に菊、桜、牡丹、唐団扇柄の文様を紫、朱、緑、若草色などの絹糸と金糸の刺繍と型しぼりで全面に装飾された小袖地を用い、裾や袖口に多色の絹糸と杢ビーズによるタッセル飾りで加飾したものである。
明治という西洋の文化導入期に「鹿鳴館の華」と称され文明開化の一翼を担った鍋島栄子夫人(1855~1941)が着装したと考えられるもので、日本の伝統美を優雅さの中に華やかさを表出した和洋折衷のドレスとして創成した特異な存在である。意匠性にも優れた模様の小袖を巧者の手慣れた技術と凝った手法を用いて巧みに仕立て上げ、ドレスデザインの観点からも優美な感性に裏付けられた優品である。また、小袖地を仕立てたドレスの現存例が極めて少ない中、侯爵家である鍋島家に代々伝えられてきた本作品は、所用者と伝来が判明するものとして希少性が高い。
さらに、伝統的な和装の小袖形状や模様を生かしながら欧米で流行のスタイルと巧みに融合させている点で優れた作品であり、美術的にはもちろん、服飾史上、また侯爵鍋島家あるいは華族の役割を考える上で歴史的にも注目されるもので、価値が高い。
佐賀県重要文化財(絵画)
朝日 青木繁筆(あさひ あおきしげるひつ) 1面
平成31年4月26日告示
所在地 佐賀市城内一丁目15番23号 佐賀県立美術館
所有者 佐賀県立小城高等学校同窓会黄城会
本作品は、青木繁が佐賀滞在中(明治41年末~43年11月)の明治43年(1910)、一時静養のために訪れた唐津で描いたもので、青木の油彩画の絶筆と目されているものである。青木は、《黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)》《海の幸》《わだつみのいろこの宮》等、日本の古代神話を題材とし、それらを大胆かつ奔放な筆致で描いたことで画壇に鮮烈な印象を与え、高い評価を受けたが、本作ではそうした特徴が影を潜め、ゆっくりと静かにうねる波涛(はとう)と、水平線上の雲海の彼方から昇る朝日が描かれ、より写生的で穏健な画風であり、青と紫を多用した光と陰影の描写は、印象派風の華やかさと繊細さを併せもち、青木の優れた色彩感覚と描写力の片鱗を認めることができる。
青木の佐賀滞在については、しばしば「放浪」と称されるが、それは決して無為な時間ではなく、佐賀での地縁を頼りに、東京画壇への再起を念頭に置いた、充実した創作活動を展開した時期とみなすことができ、本作は青木と佐賀の地縁、人脈の基盤があってこそ生まれた作品である。さらに、明治30年代末~40年代初頭は、県内洋画壇はいまだ形成されていなかった時期で、本作は油彩によって近代的な眼差しで佐賀の風景を描いた最初期の作品と位置づけることができる。佐賀の洋画壇発祥の契機として捉えられる作品であり、佐賀県の近代美術史を考察するうえで意義深いもので、価値が高い。