旧唐津銀行本店は、明治45年(1912)に建設された煉瓦造の銀行建築で、設計は清水組の田中實、監修は辰野金吾である。建物は構造体を煉瓦造として外装にタイルを張り付けた初期の事例で、煉瓦からタイル張りへと移行する過渡期の作品として評価される。外観には「辰野式」の建築表現が用いられるが、通りに面する壁面を白い色モルタル壁で覆う点や連続する半円形アーチで飾る意匠は、辰野が建築家として活動した前期と後期の建築様式の融合を図るとともに、壁面にリズムと華やかさを加えた田中のデザイン力が窺えるものである。また、内部意匠には曲線を用い、柔らかく斬新なデザインに時代の先取性も窺え、マントルピースの意匠や二階貴賓室の装飾は特に優れている。
旧唐津銀行本店は、煉瓦造の銀行建築として県内に唯一現存するもので、辰野金吾が関わった郷里に残る建物として価値を有しており、田中實による時代の先取性と独自の意匠が窺えるとともに、現存例の少ない田中の最初期の作品として希少性も高い。建物の保存状態も良好で、唐津の近代化を支えたシンボル的建物として、また街のランドマークとして都市景観にも大きく寄与している。